おいしい ふくしま物語

あづましずく

2016年9月7日

福島には、8月上旬に食べることができる極早生(ごくわせ)品種として食味が極めて優れていることから、期待されているブドウがあります。
 
それは、福島県オリジナルの品種“あづましずく”です。
プロの間でも賞賛を得ており、果樹王国福島の新たなるエースとして期待されています。

この“あづましずく”ですが、一朝一夕でこのような評価を得られたわけではありません。オリジナルの品種を生み出し、世の中にデビューさせるだけでも大変な労力と月日が必要で、しかも継続的に市場に流通するということは非常に難しいことです。
今回は“あづましずく”が生まれた場所「福島県農業総合センター 果樹研究所」を訪ね、岡田 初彦 主任研究員に話を聞きました。

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今回はその2です。
その1 育種は百年の計                       (2016年9月6日公開)
その2 すべては1本の樹からはじまった                (2016年9月7日公開)

実はお蔵入りしそうだった!?

前回の記事で、新品種として世の中に出るための長い道のりの一端をご理解いただいたと思います。“あづましずく”も同じように長い道のりを歩んできました。
“あづましずく”のような品種が求められた理由はどういったものだったのでしょうか。
 
「1990年頃、福島県はブドウの有力産地の中では条件的に不利な地域でした。その理由として、当時は全国的にみても“巨峰”が生産・流通の面で圧倒的なシェアを得ており、福島県においても巨峰に偏重した品種構成になっていました。しかし“巨峰”は比較的南の産地向けの品種で、福島では気温が足りず酸の抜けが遅い状況でした。さらに流通においても他産地と比較して出荷時期が遅れるため高い値段がつきにくかったのです。
そういったことと、種の無い大粒の巨峰が人気であったということも踏まえ、8月に収穫できる大粒で種が無い品種を育成することが育種目標として設定されました。」
 
“あづましずく”は8月のお盆の時期に収穫できる上味も抜群、大粒で種が無い品種ですので、まさに育種目標通りの品種なのです。しかし、もちろんそんな理想的な品種がすぐにできるはずもありません。

「まずは交配する親の品種選定ですが、種が無い2倍体の品種にめぼしいものが無かったため、種が無い品種であるヒムロッドシードレスという品種を実験室レベルで4倍体にする処理を行うことで大粒化するよう促し、その花粉をブラックオリンピアという品種に交配させました。」

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このような話は、実際に育成に携わっている方からしか聞けないお話です。
 
「もちろんこれ以外にも様々な交配が行われているのですが、そのほとんどがお蔵入りしてしまいました。育種はいいものを選ぶのは当然ですが、いかに悪いものを切っていくかということでもあります。しぼっていかないと系統を見つけられないのです。」
 
「実は“あづましずく”もお蔵入りしそうだったんです。」
 
なんと!驚きでした。
 
「育種目標に沿うであろう品種同士を交配させても大粒の品種が収穫できるわけではありません。ジベレリン処理(房をジベレリン水溶液に浸す処理)という作業を経ることで大粒化させることができるのですが、巨峰と同じ基準の時期にジベレリン処理をしても大粒化せずうまくいかなかった、それでそろそろ諦めるかという話が出ていたのです。」

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その状況からいったいどうやって品種として確立したのか、それはまさに偶然の出来事だったそうです。
 
「新しくやってきた担当者から、巨峰基準ではなく欧州系のブドウのタイミングまで遅らせて処理すればどうかという提案があったのです。そうしたところ見事に大粒化に成功。育種目標を達成し、種苗登録申請までたどり着くことが出来たのです。」

まさに運命的。交配が行われたのは1992年で、それを植えたのが1994年、実がなったのが1996年、これだけでも気が遠くなるような苦労です。しかもその後大粒化できずにこれまでかと思われたときに奇跡の出会い。そして品種登録が2001年。
新品種が誕生するまでにこんなにダイナミックで長期にわたるストーリーがあるとは思いませんでした。

すべては一本の樹から始まった

その後、作業場に向かってみると、ちょうど試験栽培した“あづましずく”の出荷調整作業中で、作業場にはほのかに甘い香りが漂っています。そこにブドウ栽培担当の桑名 篤 主任研究員がいました。
早速“あづましずく”の特長を聞くと、
 
「見ての通りかなりの大粒ですが、ジューシーで皮離れも良く、甘みも十分。果肉は柔らかめで好みはあるでしょうが、一般の方の評価は良いですね。」
 
とのこと。試食で最も糖度が高い付け根近くの実を頂くと、話通りの味と食感。

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「ここでは流通の際の脱粒、つまり粒が取れてしまうことがどれくらい起こるのか様々な条件で流通試験なども行っています。その結果を受けて包装資材の検討も行われるんですよ。」
 
そこまでやっているのかと驚きました。実は桑名さんは10年程前も“あづましずく”の担当だったのですが異動があったそうです。
 
「マニュアルもできたばかりで、さあこれからという時期だったので、思わず悔しさのあまり泣いてしまいました。今再び担当に戻ることが出来て本当にうれしいです。」
 
と満面の笑み。生産物には生産者だけではなく品種を育てられた方の深い思いも乗っているんだ、と感じました。

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その後、岡田さんはある場所に案内してくれました。
 
「これが“あづましずく”の原木です。ここからすべてがはじまりました。」
 
そう、樹の幹に手を触れるその場所は、何か神秘的ですらありました。
 
その味の良さもさることながら、奇跡的ともいえるストーリーを経て生まれた“あづましずく”。ぜひそのストーリーも味わっていただければと思います。

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(記事:コッシー情報員)


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