おいしい ふくしま物語

里山のつぶ

2016年10月20日

全国屈指の農業県である福島県。日本人に欠かせない主食であるお米に関しても収穫量・品質共に全国トップレベルであることはもちろん、暗い影を落とした原発事故を乗り越え“全量全袋検査”という世界にも類を見ない徹底した検査体制を確立し、安全性に関しても万全であるということは以前にもお伝えしました。
http://www.new-fukushima.jp/archives/33990.html
 
そして今、福島県オリジナルの美味しいお米の新品種を皆さんにお届けするために奮闘中であり、その先駆けとなったのが15年の歳月をかけて満を持して送り出した“天のつぶ”です。みなさんの中にもお見かけになった或いはお召し上がりいただいた方もいらっしゃると思います。
さらにその次の一手として新たに登場するべく邁進中の品種があります。それが“里山のつぶ”。
この“里山のつぶ”は豊かな自然と人が調和する場所、福島県の里山で収穫されます。
今回はその“里山のつぶ”のこれまでのストーリーと携わった方々の想いをお伝えいたします。

地道な作業のもとに

まずご紹介するのが福島県オリジナルの水稲品種を生み出すまでの長い育種の道のりと“里山のつぶ”誕生までの経緯についてです。福島県の農業振興の拠点である福島県農業総合センターを訪ね、作物園芸部 品種開発科 佐藤 弘一(ひろいち) 主任研究員にお話を伺いました。
 
「美味しいものを育種するのはもちろんですが…」との前置きがあったうえで、
 
「人によって好みも異なりますし、一口にお米と言っても様々な用途があります。

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それぞれの特徴を生かしていくような育種を目指しており、
巨釜で炊くなどして業務用のものに使えるか模索するなど、様々なニーズにこたえる品種育成も心掛けています。」
 
食味値を追及するだけでなく、ターゲットに合わせた付加価値を考えているということですね。そして、栽培特性も品種をつくるにあたり重要なポイントとなります。
 
「風雨に耐えて、倒れないような適正な草丈、冷害に強い耐冷性、高温時にも品質が落ちない高温耐性などさまざまな条件を勘案して育種が行われています。
最近は温暖化によって穂が出る時期が早まる一方、急に涼しくなる年があるなど、対応が難しいのが現状です。」

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確かに、非常に美味しいと言われていた品種が環境の変化に耐え切れず、いまでは見かけること自体が稀になってしまったという例があることを思い出し、そういった年々シビアになっている天候条件に対応するために試行錯誤されているんだろうなと思ってはいましたが、実際の試行錯誤の回数と期間は私の想像をはるかに超えるものでした。

「稲は果樹や野菜と違って接ぎ木のような栄養繁殖をすることができず、基本的に品種と品種を交配して育種を進めるしかないので、安定した品種として固定するまで最低10年はかかります。」
 
さらに、
 
「毎年、40~50程度の組み合わせから1000~2000程度の個体を育成し、そこから選抜をかさねていった結果、有望品種の候補が3つ出るといった感じです。さらにそこから切り捨てられてしまうこともありますし、品種として登録されても日の目を見ないこともあります。」
 
その選抜の方法も驚くべきものでした。
 
「交配後の種子を増やし、ほ場に各組合せ1000~2000個体を植え、その中から良いものを選抜するのに1年。そこから選抜された個体の後代を今度は30個体程度の系統として植えて、固定化されているかをチェックするとともに食味や品質を調査し1年。それをクリアした系統を生検力検定試験予備調査といって4列程度に増やして植え、収量や品質などを調査したり実際に食べて食味を確かめたりする、これに最低2年。そしてそれをクリアした系統は奨励品種決定調査予備調査を行い、さらにその先に本調査がありようやく品種化を検討して…」
 
聞いているだけでも気が遠くなりそうです。それくらい長い期間と地道な調査が行われていることに感嘆しました。

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「あの部分倒れていますよね?前段階の調査ではそういったことは無かったのですが、この調査で倒伏する傾向があることが分かりました。とはいえすぐに切り捨てるわけではなく、それぞれの系統に欠点はあるが将来、品種改良に役に立つのではないかということも勘案しています。こういったことを繰り返してより良い系統を選抜して品種化を目指していきます。」
 
お伺いしたときはあいにくの雨でしたが、その中でも試験ほ場ではカッパを身に着け選抜中の稲を注意深く細やかに観察し調査している職員の方がいらっしゃいました。こういった方々の日々の地道な取り組みのおかげで、我々は美味しいお米を頂けているということをこの身で感じ取ることとなりました。

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里山のイメージを

前述のような尋常ならざる関門を切り抜けて品種としての船出を飾ろうとしている“里山のつぶ”ですが、この品種を開発した理由について佐藤さんは次のように述べられました。

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「福島県の中山間地いわゆる里山とも言われる場所では、平坦部と違って冷涼な気象条件から栽培できるコメの品種が限られ、主に“あきたこまち”が栽培されています。現地からはその“あきたこまち”を超える品種を求める声が10年以上前からあったのです。我々としても、平坦部だけでなく、里山ならではの高品質・多収・そして個性的な特徴をもつ品種を育種し里山の農業振興に貢献したいという思いがありました。」

そういった生産地の思いと研究現場の思いが重なり合って生まれたのが“里山のつぶ”であり“あきたこまち”の生育が悪い年でも安定して高品質なものが収穫できるということはもちろんのこと、
 
「単に育てやすい・品質が良いというだけでなく、里山のイメージを思い浮かべながら、粒が大きく見た目も美しいものをと選抜してきました。
そして他県で育種されたあきたこまちから福島県オリジナルの品種に切り替えることが出来れば、農家さんの意欲の向上にも、消費者の方々へのPRにもつながるのではないかとの思いも乗せて育種された品種なのです。」

単なる育種という形を越えて、様々な方々の思いが“つぶ”となって表現されているのが“里山のつぶ”なのです。
 
「今後もより良いものを作っていきたいと考えています。ぜひ里山のつぶを一度食べて頂いて評価していただきたいです。」
 
そうおっしゃる佐藤さん。“里山のつぶ”について説明してほしいと様々な所に招かれるようになり、品種になった実感が強まっていますと、微笑まれる姿がとても輝いて見えました。

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私も、“里山のつぶ”ぜひみなさんに手に取ってそのおいしさを確かめていただきたい。そう思いました。

(記事:コッシー情報員)


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