おいしい ふくしま物語

べにこはく

2016年12月15日

“福島とリンゴ”。意外な組み合わせかもしれません。実は果樹王国福島は、知る人ぞ知る高品質のリンゴの名産地です。福島の気候条件を活かし完熟させた“ふじ”は“幻のふじ”として高い評価を受けてきました。
 
福島県が、来年度本格デビューさせるリンゴの新品種があるとの情報を入手しました。
以前、福島県オリジナルのブドウ品種“あづましずく”についてもお話を伺った「福島県農業総合センター 果樹研究所」の岡田 初彦 主任研究員にその真相を尋ねました。

福島の“ふじ”は“幻のふじ”!?

福島県はリンゴの生産量トップ5に入る大産地ではありますが、日本のリンゴ生産量の半分以上を担うトップの青森県や、3位以下を大きく引き離す2位の長野県と比べると、生産量についての劣勢は否めません。しかし岡田さんは、
 
「福島県は、全国で最もおいしいリンゴが取れるのではないかと思います。」
 
と品質の高さについては自信たっぷり。もちろんそれは根拠があってのこと。
 
「福島県はリンゴの産地としては温暖な地域にあたります。そのおかげでリンゴの主要品種である“ふじ”を完熟するまで樹に成らせておけるのです。

benikohaku_01

それが福島県の“ふじ”が美味しい理由です。完熟したりんごは、蜜入りが多くなります。」
 
ただし表裏一体の関係として、
 
「完熟させて美味しくなるのと引き換えにあまり日持ちがしないので、年内で販売しきってしまうのが基本になります。そのうえ美味しいので個人贈答の引き合いが強く、市場流通になかなか回らず皆さんのお目にかかる機会も少なめになってしまうのです。」
 
福島県の“ふじ”が“幻のふじ”と呼ばれる理由はこのようなことがあったのですね。

“べにこはく”の美しさ

このように高品質なリンゴを生産できる環境が揃っている福島県ですが、品種改良を行う現場では以前から危機感があったそうです。
 
「福島県に限らずリンゴの品種としては、お歳暮の時期に贈答用としての需要が多い、”ふじ”のシェアが圧倒的です。しかし“ふじ”だけに特化してしまうと栽培管理の繁忙期が集中して大変な労力が必要ですし、“ふじ”は自家不和合性といって自分の花粉が受粉されても実がならないため、受粉用の別の品種が少ない場合、人工受粉が必須であり、それも大変な手間となります。」
 
と栽培する現場にとって、“ふじ”のシェアが多いことによるデメリットがあることを教えていただきました。しかも、それだけではなく販売上の懸念もあり、
 
「様々な果物が手に入るようになったため、リンゴの市場価格が相対的に低下傾向にあります。かつ福島県は、先ほど述べた通り年内販売がメインということで販売時期も短い。年明けのリンゴ販売を青森県産のものに譲ってもいいのか?という問題意識もありました。」
 
とのこと。そういった課題があり、それを克服するための品種改良が望まれていたのです。
 
「温暖化の影響も踏まえながら、“ふじ”よりも遅い時期に収穫でき、かつ年明けにもできるだけ長い期間販売できるような貯蔵性がある品種を生み出すということが目標となりました。そして試行錯誤を繰り返し、様々な品種との交配、長年の育成・研究を経て生み出されたのが福島県オリジナル品種“べにこはく”です!」

benikohaku_02

ついに出ました!来年から本格栽培・出荷がスタートする福島県オリジナルの新品種は、その名も“べにこはく”。
 
名前の通り鮮烈な美しい赤い皮が特徴の品種で、福島県内では最も遅い12月上旬頃からの収穫となり日持ちも良く、年明け3月下旬頃まで高品質のまま貯蔵することができるそうです。
特に見た目のインパクトは大きく、
 
「遠くから見てもその鮮やかな赤色が目を引く、見た目の良さが自慢です。実を言うとこの試験栽培中の“べにこはく”だけが盗難にあいました。」
 
と驚きの情報!
 
「でも盗難にあったのが11月初旬なので収穫時期から一か月近く前の時期。私たちも、食べごろのような見た目だけどまだまだ収穫には早いよなー、とりあえずならせておくかと話をしていたので、泥棒も食べごろと勘違いしても無理もないのですが、甘みはほとんどなくひたすらに酸っぱいだけだったと思います。だって次の年から盗まれることがなくなりましたもの(笑)。相当懲りたんでしょうね。ただ言える事は、収穫時期を迎える前でも人目に付く、美味しそうで鮮やかな赤色をしているということです。」
 
と大笑いの岡田さん。まさに“べにこはく”の特長を象徴するようなエピソードに、思わず私も笑ってしまいました。

benikohaku_03

酸っぱい!だがそれがいい。

もちろん一朝一夕でそのような品種改良が行われ、品種登録されたわけではありません。
 
「リンゴの品種改良の期間は非常に長く、品種登録まで20年はかかるといわれています。私も、携わったリンゴたちが品種登録されるまで、退職しないでいられるかどうか微妙な所です。」
 
と岡田さん。たしかに“べにこはく”も初交配が1992年で品種登録が2016年!途方もない年月がかかっており、もちろんその期間中に消えていった品種がほとんどなのです。もう一点問題がありました。
 
「それだけ長い期間がかかるということは担当者が異動してしまうことがままあり、継続性の点で問題がありました。」

benikohaku_04

しかし、“べにこはく”についてはその問題が“吉”とでました。
 
「貯蔵性をよくするためには酸味が必要ですので、見た目の美しさと酸味が持ち味の福島県オリジナル品種第一号のリンゴ“ほおずり”と甘みが特徴の“陽光”を掛け合わせ、酸味と甘みのバランスをとることを狙いました。注目候補から注目系統へとステップアップして数年後、果実が実ったので試食したところ非常に酸っぱい!これはダメかなとみんなが思い始めていた時に異動してきたのが青森県出身の職員でした。実は青森県は酸っぱいリンゴが好まれる地域だそうで、その職員いわく、「酸味は気にならないしおいしい」と言うんですね。私たちも、そういう好みもあるのかということで試験を継続していくことになったのです。」
 
何という巡り合わせ!その結果、どのくらい遅い時期まで成らせていられるかや保存はどれくらいできるのかといったような試験をしていくと驚きの結果が次々と明らかになったのです。
 
「この品種は、収穫当初は蜜が入っていてもかなり酸味が強い状況でした。“ふじ”は2月くらいで酸味が抜けていき、実はしっかりしているがぼけた味になってしまうのに対して、“べにこはく”は食べやすい酸味になりつつも何というかしっかりとパンチが効いた味を保っており、年越しの貯蔵用のリンゴとして有望という結論になったのです。」
 
それだけではなく“べにこはく”は食べる時期によって酸味の程度が変化するので、その時々に違う味わいを楽しめるとのこと。さらに、
 
「皮ごと絞ってあげるとジュースにした時、きれいなピンク色に仕上がるんです。そして一押しなのがリンゴチップ。これがまたくせになる味。“べにこはく”は加工にも向いているのです。」

benikohaku_05
benikohaku_06

リンゴジュースとリンゴチップを試食させていただきましたが、豊かな甘みのなかにキリッと酸味が効いてバランスが良く美味しい!その上、見た目も美しいのですから非の打ち所がありません。
 
“べにこはく”は大きな可能性を秘めており、岡田さんは期待を寄せつつも次のように考えているそうです。
 
「大事なのは現場に行ってどうなるか。そして実際に手に取っていただくお客様に満足していただけるかどうか、です。」
 
それを達成するためにも、今後もさらなる研究を進めていくそうです。

“べにこはく”を命名した元果樹研究所臨時職員の佐藤 朱(あや)さんは
 
「紅色の中に琥珀色の身を持つその美しさに魅了されて、そこから名前を付けました。その美しさと特徴的な味わいをぜひ皆さんに楽しんでいただければと思います。」
 
“べにこはく”ついにデビューします!

benikohaku_07

(記事:コッシー情報員)


↑