おいしい ふくしま物語

2017年3月31日

緊急時環境放射線モニタリング検査における放射性物質の検出も劇的に減少し、安全性が確認されるとともに、試験操業が開始され、順調にその対象種が増えています。水揚げされた海産物は地元スーパーや飲食店で提供されるなど、福島県の漁業は壊滅的ともいえた状況から徐々に立ち直りつつあります。
そして、2016年6月に“ヒラメ”が出荷制限指示を解除され、試験操業の対象種に追加され、9月から水揚げが始まりました。

これは大きなターニングポイントです。なぜなら、福島県はその品質の高さも含め全国でも有数のヒラメの産地として知られており、ヒラメの復活こそがまさに福島県水産業の復活と直結しているからです。
今回は漁業者の方や福島県水産課を訪ね、現場と行政のヒラメ復活までの奮闘を追います。

皆さんが手に取りやすい工夫を

いわき市漁業協同組合 代表理事組合長 江川 章さん を訪ねました。
いわき市漁業協同組合の本所兼久之浜支所に伺ったのですが、まず目に入ったのはいまだ残る津波の傷跡でした。

江川さんは、
「今は跡が薄れてしまっているけど、あの辺りまで津波が来たんだよ。」
 
と天井近い高さを指さしました。

津波の爪痕に東日本大震災の巨大さを改めて感じ、震災後に設置された高台への非常階段は、災害はいつ来るかわからないという心構えを持つことの重要性を再認識する風景でした。

震災の被害についてお話を交わさせていただいた後、現在の漁業環境についてお話を伺いました。
 
「試験操業の対象種も90種類を超え、放射性物質の検出もほとんどないということもあって少しずつ明るい兆しが見え始めました。漁獲量も徐々に増えてきていますし、現在週2日の試験操業を来年度は3回に増やそうか、という話も出てきています。」

と笑顔を見せる江川さん。
 
1月には“沿岸はえ縄漁業”による試験操業も再開するなど、復興の歩みが目に見える形として現れてきています。
 
「3、4年前と比べるとずっと良いですね。早く漁を再開しないと漁師が海から離れてしまうと思い、必死でしたから。船があっても人がいないとね。」

しかし、懸念材料もあります。
 
「この回復状況や、すでに放射性物質の検出もほとんど無いということを広く消費者の方にお伝えしていくのが難しいと感じています。我々としても真摯に情報をお伝えするべく組合長会にマスコミの方をお招きしてオープンにするなどの取り組みを進めていますので、ありのままの情報を流してもらえればと思います。」
 
残念ながら、未だマスメディアの情報に福島県の農林水産業の現場が振り回されることもままあります。現場の努力が無に帰することが無いようにと、懸念していらっしゃいました。
 
とはいえ、すべてを震災のせいにしているわけではありません。江川さんは震災以前から漁業が抱えていた問題にも真正面から向き合っていました。

「こういった経験はいまだかつてなかったわけですから、福島県の魚介類に警戒の目が向けられるのは当然です。その不安を払しょくするために慎重に慎重を重ね調査をし、確実に大丈夫だというデータが蓄積されてから試験操業を徐々に進めていきました。その結果から、流通している魚介類の安全性には自信を持っています。
しかし、実のところ以前から消費者の方々の魚離れは進んでいたのです。魚を丸ごと買ってきたら、骨やはらわたを取らなければ調理できない。共働き世帯が増加している今、それよりもスライスされた肉や海外産の切り身あるいは調理済みの魚を選ぶのは当然のことだと思います。
我々漁業関係者は消費者のことをもっと考えて、買ってきた魚をすぐに食べられる方法などを考えなければならないのです。私たちの魚が売れない理由は震災の影響ばかりではないのです。」

福島の魚が売れないのは震災のせいだとしてしまえば楽かもしれませんが、江川さんをはじめ、福島県の漁業者はしっかりと現実を見据え、その解決に向かって進んでいました。
 
「仲買さんや地元のレストラン・料亭さんなどと連携して、地域で盛り上げていこうと話を進めています。また、組合の婦人部では魚のさばき方や調理方法を一般の方々に教える教室も随時行っていて、それを踏まえて今度久之浜の魚市場を再建する際に、そういった料理教室がいつでも行えるよう調理場をつくることを決めました。」
 
しっかりしたビジョンをもってあきらめない姿勢で困難に取り組めば今までにない大きな力が生まれるということ、福島県の漁業の現場ではその力が確実に働いていることを実感しました。

福島のヒラメに更なる付加価値を

復旧が進むだけではなく以前には無かった新しい取り組みが動きつつある中でも、とりわけヒラメの水揚げ再開は大きな力となったそうです。そこで、福島県のヒラメが美味しい理由をうかがうと、
 
「福島県の沿岸は親潮と黒潮がぶつかる場所、そういう所は餌が豊富なのです。それだけではなく沖合7~8キロメートルの所にはヒラメが身を隠しやすい“魚礁”がある。ヒラメにとって育ちやすい自然環境が揃っているのが福島県の海なのです。」
 
と江川さん。
そして、沿岸漁業の操業の自粛という我慢の期間は思わぬ副産物を生み出したといわれています。しばらく操業が出来なかったことにより、結果的に水産資源を管理することとなり、魚の量が増えているとのことです。
実際にその実感があるかと尋ねると、
 
「感じますね。獲れる量だけではなく、明らかに大きい個体が多いです。」
 
とのこと。
 
「福島県のヒラメは他のところよりもハンデがある分、付加価値を付けていかなければならないと考えていました。震災以前より、福島県では資源管理型漁業を実施しており、全長30㎝未満のヒラメは水揚げできないという小型サイズの魚の保護を目的としたルールがありました。試験操業の開始を機にこの期間限定ながら全長50㎝以上の個体のみを水揚げすることになりました。これによって“より大型で型が良いのが福島のヒラメだ”というアピールをするとともに、評価を得られるように頑張りたいと思います。」
 
との想いを語られました。
 
そういった想いや実際の取り組みを受けて、県内外でヒラメをはじめ福島の魚を食べたいとの声が広まっています。しかし、福島の魚を食べることができるところや売っている場所が分からないとの話も聞くのですが……?と尋ねたところ、
 
「いやー、私もそういった声をたくさんお聞きしているのですが、なかなかお答えできないのが心苦しいです。」
 
と江川さんは苦笑い。

「試験操業ということで、まだまだ水揚げ量が足りていないのが現状です。地元スーパーさんが積極的に取り扱ってくださっていますし、大手のスーパーさんの中にも全国に情報を発信しながら取り扱ってくださっているところがあります。そういった声と流通小売の方々の支えや消費者の方々の声に応えるため、安全性を確保するのはもちろんですが、できるだけ早く本操業に近づけて行きたいです。」
 
地元の卸、料理店関係との繋がりも含め、地域全体で福島の漁業と海産物を盛り上げていこうという機運が高まっていること、そして、品質の良い海産物を獲るだけではなく、実際に手に取り食べる方々のためにどうすれば良いのかといった意識が漁師の皆さんの中に以前より格段に強まっていることに、福島県の漁業の新しい可能性を感じました。
 
江川さんは最後に、
 
「みなさんに魚を食べていただいていることが最大の励みになっています。その信頼に応えるために、前を向いて進んでいきます。」
 
と、笑顔でおっしゃいました。

(記事:コッシー情報員)


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